質問
メリカで長期駐在員をしている40代の男性です。日本にいる母親のことで相談があります。兄はアルコール中毒で無職、妹は母と反りが合わず、私が家族のまとめ役をしてきました。親孝行はたいしたことはできませんが、年に何度か里帰りをして、夏には両親を1カ月ほどこちらに呼び寄せ、実家には毎週電話をしていました。電話すると母は自身の不幸な生い立ちから、夫の浮気、子どものために耐えた結婚、すぐれない健康状態などを長々と話します。アドバイスをしても彼女は聞き入れることなく、電話のたびに同じ文句や愚痴の連続です。1年前、私の妻(アメリカで出会った日本人です)のことで母が腹を立ててから事態は最悪です。妻は穏やで優しく、彼らが来るたびによくしてくれたし、そんなことを言われる筋合いは何もありません。子どもがいるので母親に十分に構えなかったかもしれませんが、それは仕方がないことです。なのに「嫁は謝るべきだ、嫁らしくしろ、嫁のせいでお前まで変わった」と言われると、私もカッとなり大げんかになります。母親は「お前は最低の息子だ。二度と会いたくない、死んだ方がましだ」と私を罵倒し、この数カ月、母から連絡はありませんし、私からも連絡はしていません。母親は昔から病弱で、それも心配の種です。このままでは家族がバラバラになってしまいます。私も最近は家族のことを考えると胃が痛く、どうすればいいのか分かりません。
回答
f海外に住む人にとって、日本の親との問題は大変大きな心労です。特に日本にいる兄妹が親とうまくいかない場合は、自分一人にいろいろなものがのしかかってくるので、心配、罪悪感、怒りなどが増します。あなたができるのは、1)母親のことを客観的に見ること、2)彼女とのコミュニケーションの方法を変えること、3)自分にできることを見極め、それをすること、4)家族内の世代交代の時期であることを知ること、この4点です。
1)母親のことを客観的に見る
あなたの母親は、不幸な人生を送ってこられた人です。電話で文句や愚痴を言うのは、つらい過去の出来事が今でも彼女を苦しめており、それに加えて自分のお気に入りの息子が海外へ行き結婚してしまい、彼女の寂しさと悲しみが増大してしまったことの結果です。しかし、ここで大切なのは、彼女の生い立ちや夫の浮気などは、あなたがどんなに頑張っても、今更変えられることではないということです。また、あなたが駐在員として海外で働き、幸せな結婚をし、子どもを育てているのは立派なことであると認識することです。
2)母とのコミュニケーションの方法を変える
昔から、彼女はあなたに「聞き役」を求めていたのだと思います。多くの女性は、男性に問題解決のアドバイスではなく、「気持ち分かるよ、かわいそうに」という態度を求めるものです。しかし、男性は「解決してあげなければ」という責任感から、こうすれば? ああすれば? とアドバイスを与えがちです。そうなると女性は「分かってくれない」という不満を抱き、男性は「こんなに考えてアドバイスしたのに」といういら立ちを覚えるのです。
今度、彼女と電話で話すときは、「母に話させてあげるのが親孝行」だと考えて、あなたは「うん、なるほど、ふうん」という相づちや、「~って言ってたんだ」など彼女の言ったことの最後の方を繰り返す、というやり方をやってみてください。彼女に同意する必要はないし、彼女の言うことを真剣に受け止める必要もありません。アドバイスもなし、です。
彼女の気が済んだら、その後があなたの出番です。「お袋のこと心配してるからね」「苦労したね」「体に気を付けて」などの優しい言葉をかけてあげましょう。そして彼女が落ち着いて普通の会話ができるようになることが、彼女からの感謝だと解釈しましょう。
3)自分にできることを見極め、それをする
あなたのつらさは「自分がこれだけ親にしてきたのに、母は感謝するどころか、兄妹のことは棚に上げて自分を罵倒する」という憤りです。母が元気に幸せになるとか、自分に感謝してくれるということを「今は期待しない」で、「自分にできること」に集中しましょう。以上のようなやり方で電話を何度かして、次にできるのが「家族の新しいかかわり方」です。長い時間一緒にいると、昔のパターンに戻りやすくなるので、次回帰国した際、両親を一日観光に連れ出したり、おいしいレストランで食事したりするなど、「短いけれど、けんかにならずいい時間を持てる方法」をやってみましょう。それができたら、次は兄と妹を含めた食事会、というふうに進んでいけばいいでしょう。
4)家族内の世代交代の時期であることを知る
こうして考えてくると、あなたは少し前から家族のリーダーになっていたと言えます。これまでのやり方を続けて同じパターンのけんかになっていたのは、あなたが「息子として」親と対応してきたからです。今後は「リーダーとして」、コミュニケーションし行動することで、家族関係は好転すると思います。家族のメンバーに「こうやって話し、こうやって会えばいいんだよ」というふうに見本を示すということです。
最後に、日本の親のことは、海外に生活する多くの人が抱える問題で、あなただけが悩んでいるのではないことを認識してください。そして、「自分にできることとできないこと」を区別し、できることを行動に移すことで心配や罪悪感は減る、ということを頭に入れて頑張ってください。
(スペースアルク 2013年1月掲載)